「無理やり働かされた中国人に対しては、安全を配慮する義務がない」
戦時強制連行強制労働長野訴訟で、冷酷な判決
あなたの家族が突然拉致され、敵国の地で強制労働させられたら・・・ 敗戦が色濃くなった昭和19年4月から、占領地中国から4万人を日本に強制連行して過酷な重労働を強い、7千人の命を奪った! 長野県内の木曽・下伊那の発電所建設工事に従事させられた7名の中国人とその遺族が、国と大手建設会社4社に労賃や損害賠償を請求した事件で、長野地方裁判所は、3月10日、原告の請求を全面的に退ける判決を言い渡しました。判決は、敵国のために働く意志など全くない人々を強制連行し、粗末なマントウ一個だけの食事、厳しい寒気が筒抜けの宿舎、逃走したら警察も動員して半殺しの目に遭わせるなど劣悪きわまる状況下で、一年以上にわたり過酷な生活・労働を強いたことを認定し、国と企業が共同不法行為をなしたと断罪しました。
企業に、働く者の安全に配慮する義務あること当然
しかし、判決はその一方で、「企業は働かせている従業員の安全に配慮する義務がある」という確立された判例理論について、「中国人は全く働く意志がなかったから、働く意志がある場合に当てはまるこの理論は適用されない」として、請求を退けました。とんでもありません。働く意志がないといっても、生きて中国に戻るためには働くしか選択肢はなかったのであり、しかもそれは一時的なものでなく、一年以上の長期間にわたり拘束し続けて労働を強いたのです。外形的には、長期間にわたり「たこ部屋」で働かせた場合と同じことです。この場合に企業が従業員の安全に配慮する義務があること当然ですから、中国人に対しても同じ義務を負うのはあまりに明白です。現に、これまでの10件の中国人強制連行裁判のうち、半分の5件ではこの安全配慮義務が企業にあったと判断しているのです。この点で、長野の判決はあまりにひどいものです。
県下全地方議会に、「政府の責任で解決を」と申し入れ
判決は、同時に、他の事件と同じく時効・除斥という「時間の壁」を強調しました。しかし、一般の中国人が日本の国・企業を相手取って裁判をかけることなど、1990年代になるまでとても考えられなかったことはあまりに明白です。
裁判長は、さすがに良心が咎めたのか、「中国人に対して本当にひどいことをしたという印象が残る。司法以外の方法で救済されることを望む」と異例の「私的見解」を法廷で述べました。私から見れば、裁判官の職責を放棄するとんでもないもので到底認めることは出来ませんが、戦後60年を超える中で、7人の原告のうちすでに4名が亡くなっていることも事実です。弁護団としては、控訴審に向けて準備を重ねるとともに、県議会を始め、県内のすべての議会から、政府の責任で企業から拠出を求めるなどして中国人に対して一刻も早く謝罪と賠償をなすことを求めるとの政府宛の意見書を採択していただく取り組みを始めています。皆さんのお力添えをお願いします。 (弁護団 毛利正道)(しらかば 2006.7)
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