最高裁新判例 「農地の時効取得」
平成16年7月13日判決 弁護士 菊地一二
農地の賃借権の時効取得には農地法の許可は不要。家庭菜園も賃料を受領し、20年間耕作が続けば、(借主は)賃借権を時効取得できる。
(農地法解説)
農地を家庭菜園として借り受けて野菜などを作っている事例は多く見受けられます。家庭菜園も農地ですから、賃貸(地代をもらって貸す契約)するには、農地法の許可を得ることが必要であり、許可を受けない賃貸や売買契約は、無効であるとされています(農地法3条)。このため、農地法上の許可を受けないでした賃貸や売買契約の貸主や売主は、いつでも農地の返還を求めることが出来ることになります、が・・・。
(事例)
Aさんが、ある寺院から本件農地を賃借し、20年間以上にわたって野菜等を作ってきました。ところが寺院側は、本件農地を駐車場として利用する必要が生じたことから、本件契約が農地法上の許可を得ないでした無効な契約であることを理由にAさんに対し、農地の明渡しを求めて来たのです。
借主であるAさんは、この農地の賃借権を時効取得しているので、その権利を前提としての解決を求めましたが、寺院側はこれを受け入れず、Aさんを相手取り農地の明渡訴訟を提起してきました。
一審、二審の裁判所の判断は、いずれも従前の最高裁判所の判例を踏襲して、農地法の適用にはふれずに、「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときには、土地の賃借権を時効により取得すことができる」として寺院側の明渡請求を棄却しました。
寺院側はこれを不服として、農地法の許可がないのに時効取得を認めることは法令違反であるとして、最高裁に上告受理の申立をしましたが、最高裁は、農地法の目的は、耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ろうとするものであるから、耕作をして農地を継続的に占有しているものにつき、土地の賃借権の時効取得を認めるための上記の要件が満たされる場合において、その者の賃借権の時効取得を認めることは、農地法3条の趣旨に反するものでないので、農地法の許可の規定は適用されないとして、寺院の上告を棄却しました。
これは、最高裁の新判例です。農地法の許可がない場合でも、20年間以上賃料を支払い、耕作を継続していれば、家庭菜園等農地の賃借権の時効取得が成立します。なお、そうなりますと、賃貸契約の解約は、農地法上制限されることになりますので、農地を貸している地主側の立場としては、賃貸期間が20年間を超えないうちに農地の返還を求めることも検討しなければなりません。
(しらかば 2004.10)
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