小泉首相は、アジア各国の厳しい抗議のなか、敢えて就任以来4年続けて靖国神社を参拝、今後についても実施することを前提に「いつ行うかについて、適切に判断する」と公言しています。
首相は、「戦争犠牲者への追悼の気持ちで参拝しているだけ」と言います。戦争で最愛の肉親を失い、戦後長くつらい思いをされて来た人々の中には、純粋にその気持ちで靖国神社に参拝している人々も少なくないでしょう。でも、例えば私の父が、従軍した中国で脚に受けた銃弾の後遺症でつい2年前に亡くなるまで長く苦しみつつ、しかしその一方で、多くの罪なき中国の人々のいのちを奪いそのご家族に戦後長い苦しみを与えてきたように、日本は60年前までの長い戦争で、二千万人のアジアの人々のいのちを奪い、その家族など数億人の人生を破壊して来たのです。日本人としては、このアジアの人々の気持ちもきちんと受け止めなければならないのではないでしょうか。
その点、靖国神社は、アジアの人々に多大の苦難を与えた責任者、東条英機など死刑になった6名の陸軍大将を含む14名のA級戦犯を英霊として奉っており、首相のそこへの参拝はアジアの人々からみて決して許せることではありません。ましてや靖国神社は、宮司が「わが国の自存自衛のため・・・自由で平等な世界を達成するため、避けえなかった戦い」と述べているように、明らかに領土を奪うための違法な侵略戦争であったあの戦争を「アジア解放のための正しい戦争」だったと大々的に宣伝しているところなのです。そこを国政の最高責任者である首相がうやうやしく参拝するところをみてアジアの人々はどう思うでしょうか。
今、アジアでは、日本のアジアに対する謝罪と不戦の誓いである憲法9条を変えてしまおうとすることに不安が広がっています。それに加えて、この小泉首相の靖国参拝継続態度と戦争を肯定する歴史・公民教科書問題です。「靖国問題は、過去の問題ではなく、これから日本がアジアでどのようにするのかという未来の問題だ」、つまり、日本がまた武力を使ってアジアに乗り出そうとしているのではとの強い不信と警戒心が起こってきているのです。このままでは、平和なアジアは築けません。日本人である私たちの責任重いものがあります。戦争を肯定する歴史・公民教科書も決して採用させてはなりません。
弁護士 毛 利 正 道
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